学問と論理11(西洋近代と現代の合理主義2) -なぜ・なにを・どう学ぶのか-
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とりわけ、自然科学においてデカルトは、本当に正しいと思えることのみを受け入れるために、自然科学における知識を実験で検証すること、その重要性を強調しました。さらに、自然科学の論理構成を、つまり、後の章でより詳しく説明したいと思いますが、実験結果による仮説の構築、仮説と演繹的な論証による自然現象の説明と予想、そして、その予想と実験結果の一致が仮説の必要条件による裏付けとなる、という一連の科学的手法の論理構成について、地動説さえ受け入れられていない時代に、そこまで解説を試み、その発展を後押ししました。
デカルトが強調したこの科学における実験の大切さは、科学においては知識の検証可能性が一つの科学的なる学問としての必須要素と認識されるに至り、逆に検証可能性の発達が科学という分野を広げていく要となることを示し、科学理論と科学技術の双方的な発展を後押しすることになりました。さらに、私の勝手な見解で異論もあるだろうと思いますが、デカルトやガリレオなどに始まり、実証主義に繋がっていくこの検証可能性を重視する姿勢は、デカルトへの批判によってより明確化され、直接的な関連、学術的な動向は不勉強のために説明できませんが、科学以外の分野へも確実に広がっていきました。例えば、法律で言えば事実確認、ジャーナリズムで言えば裏どり、経営コンサルタントで言えばファクトでしょうか。これらの分野では、科学と同様に、仮説の演繹によって推論される事象をきちんと客観的な事実をもって徹底して確認することが、合理的な姿勢あるいは科学的な姿勢として重視されています。現代においては、科学のみならず合理主義という言葉の中に、実証主義的な姿勢、つまり、仮説の検証可能性と実際の検証を重視することが含まれているのだろうと思います。
さらに、実証主義のみならず、デカルトの批判精神は、科学の分野に限らず通常、クリティカルシンキング、つまり、批判的考察方法などと呼ばれて、学問の基礎的な考え方として受け入れられています。とくに米国の大学教養課程においては、学問的な、正式な文章の書き方として、主に文章の調査から構成法までをクリティカルシンキングとセットにして学ぶのが、一つの基本となっているのだろうと思います。同様に文章のプロとしては、例えば、政治的な権威と対峙するのが仕事とも言えるジャーナリストに、政府の言動に対して批判的に、つまり、その内容を吟味して考察する姿勢が基本的な素養として求められているのも、このデカルトの批判精神が源流になっていると言えます。このように、現代においては合理主義、とくにデカルトの合理主義は、科学、医学、法律、政治、ジャーナリズム、経営など、あらゆる社会活動の基盤になっているとも言えます。
少し話がずれますが、そうであれば、学習においても幼児期から社会で必要とされる基礎的な能力として、議論、問答によって、より正しい根拠や解答を探究しょうとする姿勢を身に付けさせることが大事だと思います。さらに、教えられた内容をただ鵜呑みにするのではなく、疑問を持って考え、その考えを調査などをして確かめて、納得してから受け入れるという姿勢を身に付けさせることも、非常に重要な訓練であると思います。もちろん、学習において反復練習は重要ですし、素直に先生の言うことを聞けることも大切ですが、ただ、その素直さゆえに、分からないことまで分かったふりをして鵜呑みになることのないように、あくまでも正解に対して素直であれるように、分からないことに対してはきちんと疑問を示せて、納得するまで考えられるようになれれば良いのだと思います。
もちろん、疑問ばかりを持って、何も考えず、問題を解決しょうともせず、正解も受け入れず、全然前に進まないということは避けねばなりませんが、正解を見つけようとする姿勢や努力があるのであれば、分からないことだらけで足踏みばかりする段階もあって良いのだろうと思います。初めは時間がかかりますが、例えばデカルトの分解や列挙のような考察手法を教えつつ、だんだんと合理的な思考力が身に付いてくれば、分からないところは分からないところで後回しにする工夫であったり、反復練習と思考訓練の折り合いやバランスも取れるようになり、ただ反復練習しかできない子供たちよりも学習効率が自然と上がって、学習効果にも差が表れてくるだろうと思います。以上のことからすると、教師が教壇から一方的に教え、生徒が沈黙して傾聴するという割と日本で多くみられる形式の授業は、そうすることが最適な場合もありますが、基本的な、最善の授業形式として採用する必要はないのだろうと思います。
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公開日時:2016年8月27日
修正日時:2017年3月17日 章立てを追加。「民主主義とリベラル・アーツ」を修正。
修正日時:2018年3月02日 新しい内容を追加して、ページを分割。
最終修正日:2018年3月02日